甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

その顔を見て、私は心の中で自分に問いかける。


ねぇ、私。

勇気を出すのはそんなに怖い?

告白の返事をするのはそんなに怖い?

自分の大事な人に悲しい顔をさせるより怖いの?


顔を上げれば、時哉さんは少しだけ(うつむ)いていた。


私は時哉さんのその俯いた行動を見て、気づいたら動き出していた。

時哉の頬をむにっと思いっきり摘んだ。



「時哉さん!」



私の勢いに時哉が驚いて、顔を上げる。



「時哉さん、私が読んでいた漫画のヒーローはそんなに格好良かったですか?」



「え……そりゃそうでしょ。少女漫画のヒーローなんだから」

「どこが格好良かったですか?」

「……頼り甲斐があって……イケメンで、優しいとか……」

時哉が言葉に詰まりながら、私の質問の意味が分からないまま、何とか答えてくれる。



「時哉さん。時哉さんだって頼り甲斐がありますし、イケメンだし、優しいですよ。でも、そんなことは重要じゃないんです」



私の言葉を時哉さんが一文字も聞き逃したくないというように、真剣に聞いてくれているのが分かった。



「あの日、新幹線で時哉さんは私を優しいと言いました。時哉さんのことを寝かしてあげていたから。でも……あの日、時哉さんだって私の漫画を大事にしてくれた」

「あの日の時哉さんの言葉を覚えていますか? あの日、時哉さんは『ただ君が楽しく時間を過ごせたなら、それに越したことはないと思ってるだけ』と言ったんです。漫画を読んでいた私に……初対面の私にそう言ったんですよ? 時哉さんとは全く違う新幹線での時間の過ごし方を私はしていたのに」

「優しいな、と思ったのは私だって同じです。それから会っていくうちにこの人は『本当に優しい人だな』と確信した。そして、時哉さんをもっと知りたいと思うようになった」



私は、時哉さんの頬を優しく撫でた。



「私は貴方が少女漫画のヒーローじゃなくても良い。少女漫画のヒーローは格好良いんです。色んなキャラがいますが、結局格好良くて。でも、時哉さんは格好悪くても良いですよ」

「甘い言葉を言ってくれている時に電話が鳴っても良いし、人間らしく嫉妬したって良い。どんな時哉さんの表情も私は見たい。時哉さんが色んな表情を見せてくれた分、私も時哉さんにありのままの表情を見せることが出来ます」

「貴方は私の読んでいた漫画のヒーローじゃない。貴方はただの私の運命の人です」



私はそう言った後に、恥ずかしさで少し笑ってしまった。

そんな私を時哉さんが抱きしめた。