「俺も、俺らしくいても、いいんだよな…?」
澪くんは私の目を真剣に見つめてくる。
私はそれに大きくうなずいた。
「もちろん!澪くんは澪くんの好きなものを大事にして、自分らしくいればいいんだよ」
澪くんはほっとしたように表情をゆるめた。
「俺、決めたよ」
「うん?」
「将来ケーキ屋を目指す。母のためとかではなく、自分のために、おいしくてかわいいと思ってもらえるような、ケーキ屋さんを作るよ」
澪くんの宣言に、私はわーっと拍手した。
「ぜったいなれるよ!だって澪くんのケーキは、すっごくおいしかったもん!」
私も負けてられないな、と気合を入れていると、澪くんがふいに私の手を取った。
「ちとせも、協力してくれるか?」
「え?」
「ちとせもいっしょに、俺とケーキ屋をやってほしい」
「え、え?」
私も…?それってどういう…?
「ちとせとなら、最高のケーキが作れる。だからこの先もいっしょにいてほしい。ちとせのことが、……」
何を言われるのかと思って、ドキドキしながら澪くんの言葉の続きを待っていると。
「あれ~?こんなところでなにをしているのかなぁ~?」
ガラッと家庭科室のドアが開いて、雪城先輩が入ってきた。
「み、みみ澪…?まさか澪もちとせのこと……?」
「ちょっと藤川先輩!なにひとり占めしようとしてるわけ?」
後ろから祐希くんと兎山くんの姿もある。
「み、みんな!?」
ルームメイトのみんなと学校で一緒になるなんて、転入以来のことだった。



