「転入初日、ちとせがうちのケーキ屋を探していたとき。あの日は入院してる母に顔を出してから登校してたんだけど。身体壊すまで好きなことしようとするなんて、馬鹿だってずっと思ってた。だけど、ちとせみたいに、母のケーキが好きで、今もずっと想ってくれてるひとがいるんだって、嬉しくなった」

「うん!だって、とっても優しい味がして、美味しかったから!」

「うん、ありがとう、ちとせ」

 澪くんは優しく笑うと、おしゃべりの続きみたいにさらっと言った。

「そういうちとせだから、俺は好きになったんだ」

「へ…?んん??!」

「母も喜ぶよ」

「あ、うん…」

 あれ?今さらっと好き、とか言ってくれなかった?気のせい?

「今更隠しても仕方がないから、白状するけど、俺は甘いものが大好きだし、可愛いものも好きなんだ」

 そう言いながら、澪くんは机に置いていたくまのぬいぐるみを撫でる。

「ええっ!!そうだったの!?」

 澪くんの言葉に、私は目を丸くする。

「え、気が付いてなかったのか?」

「え、うん…」

 あ、でもたしかに、私が作ったケーキをいつも目を輝かせて食べていたかも!

 それは甘いもの、ケーキが大好きだったからなんだ!

「スイーツって、今は写真映え意識とかで、すごくかわいいものが増えただろ?そういうものを見ているうちに好きになったんだ。ぬいぐるみとスイーツをいっしょに写真撮るのとか、すごいかわいいと思うし」

「わかる!私もマスコットとかといっしょにケーキ撮ったりするよ!かわいいよね!写真撮りたい!って思ってもらえるケーキを作るのも、私の目標なんだ!」

 澪くんのお母さんのケーキは、味もとってもおいしかったけれど、なんと言っても、見た目がかわいらしかったの。

 見ても楽しいケーキって素敵!

 私がテンション高く食いつくと、澪くんはほっとしたような顔を見せた。

「ちとせなら、そう言ってくれると思った」

「え?」

「みんなにも、明るい言葉をかけてたの、知ってるから」

 私がみんなに言ったことなんて、大したことじゃないと思う。

 だれになにを言われても、自分らしく、あなたらしくいればいいってことだけ。