「まだ春の大三角がきれいに見えるから」
「春の大三角?」
「おとめ座のスピカ、しし座のデネボラ、うしかい座のアークトゥルスからなる三角形だよ」
「へえ!」
覗いた望遠鏡の先には、眩しい星々が見える。
「星、詳しいんだね!」
「別に。小さい頃によく父親と天体観測してたんだ。そのときにちょっと覚えただけ」
「そうなんだ!すてき!私もよくお父さんと魚釣りに行ったよ!懐かしいなぁ。なんだかお父さんとお母さんに会いたくなっちゃった!」
もちろん連絡は取り合っているけれど、もう二カ月以上も会っていないのだと思うと、やっぱり少し寂しくなった。
「ちとせ、寂しいの?」
澪くんが少しからかうようにそんなことを言うので、私はちょっとだけ強がってしまった。
「べ、別に寂しくなんかないもん!」
私の言葉に、澪くんはくすっと笑って、私の頭を撫でた。
「ちとせは本当に昔から嘘が下手だな。寂しいなら、俺に甘えたら?」
「え?え?」
私が戸惑っているうちに、「あ、そういえばこの時期」と澪くんは話題を星に戻してしまった。
甘えたら、ってなに!?
そんなこと男の子に言われたことのなかった私は、変に意識してしまった。
それと昔って、なんのことだろう?
昔から嘘が下手、澪くんはそう言った。
私は首をひねりながらも、澪くんとの天体観測を続けたのだった。



