「あれ?声が聞こえた気がしたんだけど~…」と言いながら、雪城先輩は階段の方へと歩いて行った。
心臓がやけにうるさい。隠れているせいなのかな、それとも澪くんに抱きしめられているから?
「ようやく行ったか」
澪くんはそういうと私を解放した。
「ぷはっ!」
ようやくゆっくりと空気を吸えるようになって、私は澪くんに向かい合う。
「びっくりしたよ~」
「悪かったな」
「わざわざ隠れなくてもよかったんじゃない?」
私の言葉に、澪くんはふるふると首を横に振った。
「いや、見つかりたくなかったんだ、俺の大事な時間だから」
そう言った澪くんの隣に、真っ白な大きな望遠鏡があることに、私はそのときようやく気が付いた。
「望遠鏡?」
首を傾げる私に、澪くんはうなずいた。
「天体観測。好きなんだ、こうやって静かな夜にひとりで空を見るのが」
知らなかった、澪くんがここで天体観測をしているなんて。
澪くんは、星が好きなんだ!
そこで私ははっと気が付く。
「ご、ごめんね!澪くんの大切な時間なのに、私、邪魔しちゃった!」
「別にいいよ。ちとせなら」
「え?」
「ちとせは、静かに星を見られるだろ?あいつらじゃ、無理だから」
澪くんは呆れたようにため息をついた。



