「うん」と答えたかったけれど、間近に澪くんのきれいな顔があってドキドキしてしまった私は、すぐにうなずけなかった。
「ま、冗談だから」
すっと離れていく澪くん。
「え?」
「最近いつもだれかしらに捕まってるだろ。少しはちとせもゆっくり過ごしたら?」
そういうと澪くんはまた洗い物に戻る。
「う、うん、ありがとう…」
びっくりしたぁぁ~!と思いながらも、少しがっかりする自分がいた。
澪くんとはこうしていつもご飯の支度や片付けをしていて、それなりにおしゃべりもしているんだけど、それだけ。
いつもクールであまり感情を表に出さない澪くんは、どんなものが好きだとか、どんな夢を持っているのかとか、そういうことを口にしない。
私はそのひとの好きなものや、それについて語っている姿を見るのが大好きだから、お友達の好きなものはなんでも知りたくなっちゃう。
だけど、澪くんのことはいまいちわからない。
この寮に誘ってくれたときみたいに、私が困っているとすぐに気が付いて声を掛けてくれるから、すごく優しい子だっていうのはわかる。
だからこそ、もっと仲良くなりたいんだ。
澪くんの好きなもの、訊いてみようかな、とそんなことを思っていると、洗い物を終えた澪くんは私を振り返って言った。
「なにか手伝うことある?」
「あ、ううん!大丈夫!もうお皿も拭き終わるから」
「そうか。じゃあ、お先に」
「うん!」
澪くんが足早にキッチンを出て行く。
いつもは私が終わるまでなんだかんだ傍にいてくれるんだけど、今日は本当になにか用があったのかも?
私も拭きものを終わらせて、自室へと戻った。



