だれもがみんな私みたいに好きなものやことを言えたり、将来の夢を語れたりなんかしない。

 もちろん人それぞれだってことはわかってるんだ。でもね。

「私、兎山くんに夢を諦めてほしくない。だれかに何かを言われたくらいで、簡単に諦められる夢だったの?兎山くんの夢ってその程度の気持ちだったの?」

 私の言葉に、布団を放り出して兎山くんが顔を出した。

「はぁ!?そんなわけないでしょ!僕がどれだけ漫画を好きだと思ってるの?どんなに辛いときだって、漫画の登場人物たちは僕より強くてかっこいいんだ。僕もそんな世界を描きたい。僕の絵で、世界を作りたい!!」

 私の言葉に乗せられて飛び出してきた兎山くんは、はっとしたように私をにらんだ。

「花宮先輩、もしかして僕をはめた?」

「まさかまさか!」

 私はぶんぶんと手を振る。

 怪しむように私を見ていた兎山くんは、大きなため息を吐き出した。

「花宮先輩に乗せられたみたいで腹立つけど、やっぱり僕、夢を諦めたくないんだ。父様にはああ言われたけど、いつか見返してやりたいとも思う。だって、僕天才だよ?絵画だって漫画だって、どっちもがんばればいいだけでしょ」

 兎山くんの強気な発言に、私は思わず笑ってしまった。

「ちょっと!花宮先輩、なに笑ってるわけ?」

「ううん!兎山くんらしいなって思ったの」

 漫画も絵画も諦めない。

 すごいなって思う。

 夢はいくつあってもいいもんね、叶えたいことがたくさんあるのは楽しいことだよ。

「ね、兎山くん、提案なんだけど、」

「今度はなに?」

 兎山くんは私の提案に眉をひそめたけれど、渋々うなずいてくれた。