「周りはみんな、僕が絵画の道に進むことを望んでるんだ。僕が漫画家になることなんて絶対許されない。だからこれ以上描いても意味ない。花宮先輩のモデルも今日で終わり」
そう吐き捨てるように言葉を投げると、兎山くんはキッチンを出て行ってしまった。
「兎山くん……」
兎山くんの苦しそうな表情。
本当は漫画を描くのが大好きなのに、諦めようとしてるんだ。
そんなの、絶対にだめだよ…!
私はあわてて兎山くんの後を追った。
「兎山くん!」
コンコン、と兎山くんの部屋をノックするけれど、返事はない。
けれどなにかごそごそ音がするから、きっと部屋にはいると思うんだ。
私はおそるおそるドアノブを回して、兎山くんの部屋へと入った。
「お、お邪魔します…」
いつも作業している机には兎山くんの姿はなくて、代わりにベッドの上の布団がもこもこ丸まっていた。
「出てって」
布団の中からくぐもった兎山くんの声が聞こえてきた。
「入室許可してないしっ」
「う、ごめん…。でも、……漫画描くの、本当に辞めちゃうの?」
「だってなんの意味もないじゃん」
「でも好きなんだよね?」
「あんたはいいよね、好きなものを好きって言えてさ。みんながみんなあんたみたいじゃないんだ」
兎山くんの言うとおりだ。



