「失礼しまーす…」

 コンコン、と第二家庭科室の扉をノックして、ゆっくりとスライドさせる。

「あれ、いい匂いがする…」

 教室に入ると、ほのかな甘い香りがした。

「この匂いって、…クッキー?」

 たぶん、クッキーを焼いた匂いだと思う。

 クッキーの甘い香りが、家庭科室に漂っていた。

 授業は主に第一家庭科室を使うって聞いた。

「ということはもしかして、お菓子作り部がクッキーを焼いていたのかな!?」

 やっぱりお菓子作り部はこっそり活動してるんだ!

 きっとそうに違いないと、私はうれしくなる。

「今度は、会えるといいなぁ……」

 結局その日は会えなかったけれど、私はうきうきと家庭科室を出た。

 すると。

「あ、あの…花宮先輩」

「え?兎山くん?」

 おどおどとした兎山くんが私におそるおそる話しかけてきた。

 いつものズバズバとものをいう兎山くんの姿はそこにはなくて、かわいらしいおとなしそうな後輩の姿だった。

 通りかかる生徒数人が、兎山くんを羨望の眼差しで見ていく。

 そっか。学園内ではこのキャラなんだっけ。

「どうかした?」

「えっと…花宮先輩にお願いがあって…」

 そう兎山くんに言われて、いっしょに美術室にやってきた。

「ごめん、花宮先輩。こんなところまで」

「ううん、全然!」

 美術室に入ると、そこにいたのはいつもの兎山くんだった。