コンコンと部屋の扉がノックされる。
「はい」
兎山くんが辺りに散らばる紙をさーっと隠して返事をすると、澪くんが顔を出した。
「慶次郎?」
部屋に入ってきた澪くんと私の視線が重なる。
「花宮が慶次郎のようすを見に行ってから、ぜんぜん戻って来ないから来たんだけど…。花宮もここにいたのか」
「ごめん澪、花宮先輩と話しこんじゃってた。さ、タルト食べよーっと」
兎山くんはぱたぱたと部屋を出て行く。
私たちもその後をゆっくりとついていく。
「ちとせ」
「ん?」
澪くんに呼ばれて振り返る。
そういえば澪くんって私のこと、花宮って呼んだりちとせって呼んだりする。
使い分けになにか意味があるのかな?
「なあに、澪くん」
「…慶次郎の部屋でなにしてたんだ?」
「え?」
兎山くんが漫画を描いていて、それについて話していた、なんて口がさけても言えない。
これは私と兎山くんだけの秘密だって、約束したんだ。
「えっと…ちょっと絵について兎山くんから話を聞いてて!兎山くんって本当に絵が上手だねぇ」
嘘をついているわけではないんだけれど、なんとなく後ろめたさがある…。
澪くんは私の目をじーっと見て、さっさと前を歩いて行ってしまう。
「あっ、澪くん待って」
「ちとせって、」
「え?」
「嘘下手だよな」
澪くんは浅くため息をついて談話室に戻っていった。
え、それってどういうこと?もしかして顔に出てた?
兎山くんが漫画を描いているって、澪くんにはバレてないよね?



