「たしか兎山くんの部屋は雪城先輩のとなりの部屋だったよね」
階段を上がって、一番奥の部屋だったはず。
私は音を立てないように、そろりと廊下を歩いていく。
すると、兎山くんの部屋の扉が少し開いていた。
あわてて部屋に戻って描きはじめたのかな?
邪魔にならないように、こっそりと部屋をのぞき見る。
そこには机に向かって必死になにかを描く、兎山くんの姿があった。
あ、やっぱりなにか集中して描いてるんだ。
声をかけるのはやめようと立ち去ろうとしたとき、兎山くんの部屋に落ちている紙が目に入った。
もちろんその紙には絵が描かれていたんだけれど、四角の中にいくつもの四角があって、その中になにか文字が書いてある。
あれって、もしかして……。
「漫画……?」
思わずこぼれてしまった言葉に、兎山くんがばっと振り返った。
「だれ!?」
するどい声がこっちに飛んでくる。
私は観念して、扉をゆっくり開けた。
「花宮先輩…」
「ごめんね!邪魔するつもりはなくて…!タルトどうするかなって、ようすを見にきたんだけど、そうしたら床に落ちてる紙が目に入って…」
「いいから部屋入って」
私がしゅんとしていると、兎山くんは焦ったように私を部屋に押しこんだ。
扉がぱたんと閉まる。
「他にはだれもいない?」
「え?ようすを見にきたのは、私だけだけど…」
兎山くんは少しほっとしたように息をついた。
「まぁ、ばれたのが花宮先輩なら、いいか…」
「え?えっと…?」
近くに落ちていた紙を拾い上げた兎山くんは、それを私に見せる。
スケッチブックの紙に描かれたそれは、やっぱり漫画の一ページだった。
「僕、漫画描いてるの。将来、漫画家になりたいから」
美術部の王子様、兎山くんは、そうはっきりと私の目を見て言った。



