シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

「うれしい」

 そうつぶやいた彼は、ただでさえ近かった顔をさらに近づけてきた。
 そして……。


 チュッ


 唇に、柔らかいものが触れた。

 なにをされたのか理解する前に、周りの方が騒がしくなる。

「キャー! い、今キスした?」
「しかも口に!?」
「ちょっ、これどういうことだよ!?」

 どういうことって、私が聞きたい。
 こんな公衆の面前で、キスされるなんて。

 でも、うれしそうに、幸せそうにほほ笑む透里の顔を見ると怒りたい気分はなくなる。
 だから、ただただ恥ずかしさだけが湧き上がってきた。


 透里の彼女になれて、うれしい。
 キスをされて、恥ずかしい。
 大好きな透里の甘い笑みを向けられて、とても幸せ。

 色んな感情が一気に湧き上がってきて溢れた私は。

「ふにゃぁ」

 心だけじゃなく体も溶けた。



 これからも透里には翻弄させられそう。
 優秀なエージェントになるためにはしっかりしないとって思うけれど、今はまだ好きな人の腕の中で甘さに浸っていたいとも、思った。

END