シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

 って、よろこんでる場合じゃないよ! ここは私が絶望するシーンなんだから!

 あわてた私は透里の襟元をつかんで引き寄せ、小声で話した。

「なにやってるの!? こんな、悪役の私を助けるようなマネするなんて!」

 私の非難を透里はフン、と鼻を鳴らして一蹴する。

「別にいいだろ? もう明日から俺たちはいないんだし」

 悪びれる様子もなく言った透里は、「それに」と続けた。

「たとえ演技でも、あやめが傷つくところ見たくないし」
「っ」

 なんてうれしいことを言ってくれるんだろう。
 ダメなのに、胸の奥があたたかくなって、鼓動が早くなるのを止められない。

「で、でも、私透里の彼女じゃないでしょ? ウソついてまで止めなくても――」
「ウソじゃねぇよ」
「え?」

 私の言葉を途中で止めた透里の顔を見上げる。
 空色の目は、とても真剣な意思を宿していた。

「この間、あやめのこと『好きな子』って言っただろ?」
「あれ、やっぱり、そうだったの?」

 戦いの直前にサラリと言われただけだったし、どういう意味かちゃんと確認できていなかったから、確信は持てなかった。

 でも、今それを言うってことは……。
 ドキドキと、胸が高鳴る。