「一叶が、つれて行かれた?」

 私の話を聞いた辰見くんは、少し血の気が引いたような顔色になりながらもすぐにスマホを取り出し、電話をかけはじめた。一叶ちゃんにかけているみたいだ。

 それを見て私は自分がうっかりしていたことに気づく。
 悪女役の私が一叶ちゃんに電話なんかしたらダメだって意識があったせいか、まずは電話で安否確認という方法を失念していた。

 透里と辰見くんの居場所を知るためにもスマホを使えばよかったのに。そっちも同じ理由で頭になかった。

 今は緊急事態なんだから、電話してもいいはずなのに。

 内心深く反省していると、透里が思案顔でつぶやく。

「邑本先輩に連れて行かれた? じゃあやっぱりストーカーは邑本先輩なのか?」

 透里の疑問は私も思ったことだった。でも、つじつまが合わない気がする。

「でも、一叶ちゃんをいじめるように裏で手を回してた人だよ? 『君を害する女には制裁を』なんて手紙を送ってくるストーカーがそんなことするのかな?」
「ストーカーの心理状態は色々あるからな。確信は持てないけど……とにかく、津嶋さんの安否確認が最優先だ」

 頭のいい透里でも、邑本先輩がストーカーなのかどうかハッキリしないみたいだ。透里が判断できないって言うなら、今はまだ判断材料が足りないってことなんだろう。
 私はうなずいて、一叶ちゃんと連絡を取ろうと奮闘している辰見くんを見る。