シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

「あやめ……その、ずぶ濡れになったみたいだけど、大丈夫か?」
「え?」

 まさか、最近私を避けていた方の透里が話しかけてくるとは思わなくて、私は驚き動きを止める。

「まだ夏には早いし、寒気とかするようだったら気をつけろよ?」

 心配そうな透里の表情に、不覚にもうれしいと思ってしまう。好きな人に気にかけてもらえるってことが、こんなにも心温まることだってはじめて気づいた。
 前まではそれが普通だったから、気づいてなかったのかも。

 私がそんな喜びに浸っていると、透里はハッとしてから私から目をそらした。
 空色の目が、ちょっとだけ曇る。

「……って、これじゃあ過干渉か。悪い、気にしないでくれ」
「え?」

 そのまま自分の部屋に向かう透里に、じわりと焦りがにじみ出す。

 また、離れてしまう。
 そう思った私は、言葉より先に透里の制服の(すそ)をつかんで彼を引き留めた。

「なんだ? どうした、あやめ?」

 優しい透里は、イヤな顔もせず首を回して私を見る。
 変わらない優しさにホッとして、私はすんなりと謝罪の言葉を口に出せた。

「この間はごめんね。近すぎて困るって言ったの、取り消す。透里には、私のそばにいてほしい」

 自分でも驚くくらいすんなりと思ったままの言葉が出てきた。
 『そばにいてほしい』なんて、いつもだったら恥ずかしくて言えないのに。

 私が普段そんなことを言わないの、透里もわかってるんだろうな。
 なんか、すごく驚いた顔をされた。

 目なんて白目の部分が大きくなるくらい見開かれてる。