シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

 ただの水だし、そんなに騒ぐようなものじゃないのに。

 なんて思いながら一叶ちゃんを確認する。

 ちょっとはかかってしまったみたいだけれど、私ほど濡れている様子はなくてホッとした。
 私だけ避けるなら簡単だった。なにかの陰が見えた瞬間に素早く移動しようと思えばできたから。

 でも、私が避けたら一叶ちゃんが水をかぶってしまう状態。
 それに一叶ちゃんにもかからないように水を避けようとすれば、間に合わなくて二人そろって濡れちゃってただろうし。

 だから、気づかないフリをして私一人が被害をこうむることにしたんだ。

 でも、ただの水でよかった。

 掃除した後の汚れた水とかだったらサイアクだし。


 不幸中の幸いとなる部分を考えながら、私は濡れた髪を耳にかけ軽くのけぞるように上を見た。

 真上にある窓を見上げると、そこには青い顔をした男子生徒がこちらを見下ろしている。

 つまり、彼が窓から水を捨てて私を水浸しにして、一叶ちゃんを守ったというところかな?

 こんな、乱暴な助け方するとか……やっぱり、一叶ちゃんのストーカーはあなただったみたいだね。


 松田剛くん。