シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

「あやめさんは知らなかったんですか?」
「じゃあ、やっぱりただのウワサなのかも」
「でも、その婚約者が津嶋さんだなんてウワサもあるから、それはどうにかしないと!」

 一叶ちゃんが辰見くんの彼女だっていうのはみんなが知ってる。だからそっちのウワサは自然な成り行きだと思うんだけど……。

「……それは、聞き捨てならないわね」

 冷たく聞こえるように、声を少しだけ低くしてつぶやく。

 悪女役としては、この状況で何もしないなんて選択肢はない。
 私はそのまま三人に、放課後校舎裏へ一叶ちゃんを呼び出すように指示を出した。

***

 放課後までの間に情報収集したかぎりでも、一叶ちゃんへの風当たりはまだ強い。

 私にいじめられているかわいそうな子、というイメージもついてきたから同情する人もいるみたいだったけれど。
 それでも落ちぶれた家の子なんて辰見くんに相応しくない! って声はやっぱりあった。

 だから、今回も私が一叶ちゃんをいじめてるって周囲に見せる必要がある。
 人気のないところに呼び出すように指示しちゃったから、周囲の目としてあの三人を連れていくしかないかな。

 本当は彼女たちと一叶ちゃんを近づけたくはないんだけどね。

 仕方ない、あの三人が一叶ちゃんを傷つけるようなことを言わないように、気をつけて見ておこう。
 そんなふうに気を引き締めて、放課後を待った。