シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

 透里は捨て子だったらしくて、親が誰なのかもわからない。
 本来はあるはずの、家族っていう強い繋がりをはじめから持っていなかった。

「俺たちの仕事は必要以上に情を持っちゃいけない。それが足枷(あしかせ)になることも多いから。でも、透里には繋ぎ止めるものが必要だと思ってる。親も知らなくて、自分が何者かもわからない。その不安はきっと俺たちが思っているよりも強いだろうから」
「透里の、不安……」

 創士さんの話を聞きながら、私は透里を思う。

 透里が寂しさや不安を感じているところは、一度だけ見たことがある。
 一緒に訓練をはじめて、一年くらい経った頃。
 泣いてはいないけれど、一人でうずくまっていた透里にしつこく『どうしたの?』って聞いたことがあった。

 あのとき、しつこい私に観念したのか、透里は少しだけ不安を話してくれた。

『みんなと見た目もちがう。俺はひとりぼっちだ』

 そう話してくれた透里に、私はちょっとズレたことを言っちゃった気がするけれど、あのとき以降透里の不安そうな姿は見たことがない。

 きっと、また私にしつこく聞かれないように隠してたのかも。
 今だったら、もうちょっと寂しさに寄りそった答えができると思うんだけど。

 透里の不安をなくすには、どうすればいいんだろう?

 透里の幸せを考えて切なくなっていると、創士さんはしっかりと私に告げた。

「透里を繋ぎ止められるのは、あやめだと俺は思ってる。裏の仕事をひたむきに頑張って……【夜天光】っていう夜の世界にいるのに、まぶしいほどまっすぐなあやめだから、透里の内側にも入っていけるんじゃないか、ってな」

 ニッと口角を上げて、自信に満ちた笑顔を見せる創士さん。
 創士さんの言うとおり、透里を繋ぎ止める――ううん、支えになってあげられるのが私なら、そんなにうれしいことはない。

 でも……。