シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

「……だって、透里は過保護なんだもん。幼なじみみたいなものだけど、たまに近すぎて困る」

 だから離れようとしているんだ、って伝えた。
 伝えた言葉は本当だから、ウソをついてるわけじゃない。ただ、伝え方が本当の気持ちとはちがうだけ。

「近すぎる……か。まあ、否定はできないな……」

 曇り空のような目の視線が、私から外れる。同時に、にぎられていた手も離された。

「悪かった……これからは、あんまり近づきすぎないようにするよ」

 私を見ないまま、透里は立ち上がってドアの方へ歩いて行く。

 離れていくその距離が、透里との心の距離のように見えて、私は「あ……」と小さく声を上げた。
 そのまま呼び止めたい衝動に駆られたけれど、彼を傷つけたんじゃないかという不安で声が出ない。

 自分でつきはなしたのに、すでにこんなにも苦しい。

 透里の背中を隠していくドアを見つめながら、涙が滲んできた。

 ダメだよ。今泣いたら、目が腫れて教室に戻れない。
 そう思うのに、透里のことだとやっぱり感情の制御が出来なくて……。

 これでいいはずなのに、心が痛くて涙が止まらなかった。