シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

「それは、本当に可能性が高いな」

 ちょうど手当てを終えた透里は、自信が持てて力が入っちゃったんだろうか。私の手をそのままギュッと握った。
 好きな人の体温を直に感じて、鼓動が早くなる。
 透里が浮かべる笑みも男の子らしくてカッコ良くて、一気に仕事モードの私が頭の中からいなくなってしまった。

 心は喜びに満ちているけれど、理性がダメだって叫ぶ。
 こんな簡単に仕事に集中できなくなるなんて……やっぱり、透里の側にいるわけにはいかないよ!

「そうだね。あ、手当てありがとう。早く自分の教室もどりなよ」

 透里から視線をそらして、握られている手を引っ込めようとする。
 でも、さらに強くつかまれてそれは叶わなかった。

「待てよ。またいきなり……あやめ、お前最近俺のこと避けてるだろ? なんでだ?」
「避けては……」

 いない、なんて言えなかった。

 幼なじみでもある透里にはウソはつけない。言ってもすぐにバレちゃうから。
 でもだからといって、ドキドキして仕事にならないから近づかないで、なんて言うわけにもいかないし……。

「俺、あやめがイヤがるようなことしたか? もしそうだったら教えてくれ、もうしないから」

 眉が下がり、私の大好きな空色の目が悲しげに曇る。
 そんな顔をさせたいわけじゃないのに……。
 でも、本当のことも言えなくて……だから私は――。