シークレット・ミッション～なりきり悪女の恋愛事情～

　うーん……とりあえず足をかけて見せなきゃならないし、その上で一叶ちゃんがケガをしないように守ればいいかな？
　転びそうになった一叶ちゃんにジャージをつかまれたように見せて、一緒に転倒すればイケるんじゃない？
　荒い作戦だけれど、時間はないしそれで行くしかない。

　どんどん迫ってくる一叶ちゃんを見つめ、ゴール直後で油断したところに、私は彼女の前へ足をスッと出した。

「え？　あっ」

　つまずいて、不自然に傾く一叶ちゃんの体。
　私はすぐに足を引っ込めるように見せかけて体の位置を変え、一叶ちゃんの手が私のジャージの袖をつかんだように見せかけた。

「え？　なっちょっと！？」

　とつぜんのことにおどろいているような声を上げた私は、一緒に倒れながら一叶ちゃんの下になる。
　直後、背中に衝撃を感じて、次に胸と腹の辺りに人の重みを感じた。

　一叶ちゃんがケガをしないように、彼女の身体を抱え込む。
　ズザァッと地面に体をこすって、転んだ衝撃に耐えると、私は腕をはなしながら小声で一叶ちゃんに問いかけた。

「一叶ちゃん、ごめんね。ケガは無い？」
「っ！　あや――」

　とっさに『あやめちゃん』って呼ぼうとした一叶ちゃんの口を人差し指でサッと押さえると、私は小さく笑みを見せてから目をつりあげ悪女モードに切り替える。