シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

「ほら、あの子の番だよ」
「あ、ホントだ」
「ねえ、誰が足をかける?」

 その会話だけで大体なにをしようとしているのか察する。
 ホント、救いようのない……。

「……私がやるわ。どうせなら、しっかり盛大に転んでもらわなきゃ」

 顔だけで三人を振り返り、切れ長なつり目を細めてうっすらと笑う。

 とても悪女らしい笑みになってたんだろうな。
 三人はあわてて「「「どうぞどうぞ!」」」と声をそろえた。

 コントでもしてるのかと思いながら、私は記録を彼女たちに押しつけるように任せ、位置についた一叶ちゃんを見つめた。

 さて、どうしようか。

 肩を押してしりもちをつかせるならともかく、走っている子の足を引っかけたりしたら確実にケガをする。
 一叶ちゃんをいじめる役とはいえ、護衛としてはケガをさせるわけにはいかない。

 でもやるって言ったのに、ここで止めたら取り巻き三人には確実に不審がられちゃう。
 そのまま本当はいじめるつもりがないとバレちゃっても困るし……。

 うーん、と頭の中だけで考えていると、スタートの合図のホイッスルが鳴った。

 ピー!

 何度も聞いたホイッスルの音と共に、ふわふわな薄茶の髪をポニーテールにした一叶ちゃんがこっちに走ってくる。