あれは五歳の誕生日前のことだった。
 海外で仕事をしていた両親が、スパイの容疑をかけられて日本に帰って来られないって聞いたのは。

 でも、両親がいないときにいつも私のお世話をしてくれているおじさんとおばさんが、自信に満ちた顔をして言ってくれたんだ。

『大丈夫、私たちが絶対にあやめちゃんのお父さんとお母さんを連れ戻してくるからね』

 って、優しく、力強く頭をなでてくれた。

 あのときの頼もしさに、不安でいっぱいだった私は救われたんだ。

 そしてなにより、彼らは宣言したとおりお父さんとお母さんを連れ戻してくれた。
 無事に、みんなに誕生日を祝ってもらうことができたの。

 それまで両親の仕事がどんなものなのかはよくわかっていなかったけれど、その五歳の誕生日を期にちゃんと説明してもらった。
 お父さんとお母さんはSP養成機関である【暁】の、裏の組織である【夜天光】に所属しているエージェントで、両親がいないときに私のお世話をしてくれていたおじさんおばさんたちも同じく【夜天光】のエージェントなんだって。

 特に、両親やお世話をしてくれてたおじさんおばさんたちはかなりの実力者だったみたいで、裏では優秀なエージェントとして有名らしい。

 この国の子供たちが泣かないようにって、信念を持って仕事をしているエージェントたちに憧れた。
 彼らのようにカッコ良くみんなを守ることが私の夢になったんだ。

 憧れの人たちみたいな、立派なエージェントになるには勉強も訓練もたくさんしなきゃならない。
 ある程度の実力がついた今も、それは変わりない。

 だから、普通の中学生みたいに恋をしたり遊んでいるヒマはないんだ。
 好きな人がいても、その人に心を乱されてるヒマはないんだ……。