シークレット・ミッション~なりきり悪女の恋愛事情~

 いじわるそうだった表情は、いつの間にか真剣になっていて……今はとにかくカッコイイ。
 そんな透里に見つめられているだけで、頭だけじゃなく全身が熱くなってきた。

 これ、本当にヤバイ。
 透里のことが好きだって、言ってしまいそうになる。

「なぁ、あや――ぐおっ!?」

 さらに迫ってきそうだった透里の顔が、いきなり下に落ちた。
 代わりに目が合ったのはくるんとかわいい黒目。

「キャン!」

 舌を出してうれしそうに尻尾を振っているマロが、透里の背中に前足を乗り上げたみたい。
 その目と尻尾が、『休憩したよ! 次は訓練? それとも遊ぶ?』と私に伝えてくる。

「ふっ……あははっ」

 今の状況と、さっきまでとの差に思わず笑ってしまった。
 カッコ良かった透里も、マロに踏まれて不満顔になっていてちょっとかわいい。

「マロ、休憩が終わったなら訓練再開しようか。透里も、訓練するために出てきたんでしょ?」

 またクナイと犬笛を取り出して立ち上がると、マロは透里から降りてビシッとお座りをした。
 透里はまだ不満そうだったけれど、大きく息を吐いて立ち上がる。

「それもそうだな」

 そうして訓練を再開しながら、私はもっと気を引き締めなきゃと強く思った。

 恋にうつつをぬかしているわけにはいかない。
 私は、両親とその仲間たちみたいな優秀なエージェントになりたいんだから!