シークレット・ミッション～なりきり悪女の恋愛事情～

「なにやってるんだ？　こんなところでじゃれ合ってないで早く中行くぞ。報告しなきゃないだろ？」
「あ、透里(とうり)。おかえり」

　同い年の木虎(きとら)透里は、今回の仕事のためにこの家で一緒に暮らしている男の子。小さい頃から一緒にいたし、ある意味幼なじみみたいなものなのかな？
　ビルのすき間から差し込む日差しが彼のハチミツみたいな金色の髪をきらめかせていて、まるで物語の王子様みたい。

「ただいま。あやめもおかえり」

　ちょっとぶっきらぼうな話し方をする王子様だけど、透里はあきれた顔をしつつもしゃがんでいた私に手を差し出してくれた。
　なんだかんだで優しい透里の手を取った私は、トクンと鳴った鼓動を押さえつけて笑顔で返事をする。

「うん。ただいま、透里」

＊＊＊

　透里とマロと一緒に家の中に入ると、一人の若い男の人が出迎えてくれた。

「二人とも、おかえり」

　グレイに染めた長めの髪と、優しそうとも軽そうとも取れる甘い顔立ちの二十代男性。
　彼は私と透里の保護者兼上司で、創士(そうし)さんっていうんだ。一見優しそうだけど、怒らせるとかなり怖いの。

　今は優しく微笑んでいる創士さんは、そのまま目だけを真剣なものに変えて私たちに要求する。

「さて、さっそく報告してもらおうか？」

　その言葉に、私たちはリビングへと移動した。