「あ、その……なんでもないの。ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
震えた声で告げた一叶ちゃんは、顔を上げないまま走り去って行った。
「一叶!?」
辰見くんは呼び止めたけれど、一叶ちゃんが足を止めることはない。
小さな背中を申し訳ない気持ちで見送ると、辰見くんがいつもは優しい目をつり上げて私たちをにらんだ。
「君たち、一叶になにを言ったんだ?」
怒りを隠しもしない低い声に、三人は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
いつも優しい辰見くんが、ここまで怒るとは思わなかったのかもしれない。
バカだな。大切な人を傷つけられたら、どんな優しい人だって怒るに決まってるのに。
「……ねぇ、あなたたちは先に教室もどってくれない? 私、哩都と二人だけで話がしたいの」
私は三人に顔を向けないままもどるようにうながす。
すると、彼女たちは水を得た魚みたいに「わかった!」と言って走り去ってしまった。
足音も聞こえなくなるまでだまっていると、私より先に辰見くんが口を開いた。
「鴇野さん? なにがあったんだ?」
二人きりだからか、苗字呼びする辰見くん。その声は警戒しているかのように少し固い。
私が実は本気で一叶ちゃんをいじめてるんじゃないかとでも思ってるのかな?
それはそれで私の演技が完璧だってことだから別にいいんだけれど。でも、さっきから抑えている怒りを隠しきれていない私は、やっぱり未熟なんだ。
震えた声で告げた一叶ちゃんは、顔を上げないまま走り去って行った。
「一叶!?」
辰見くんは呼び止めたけれど、一叶ちゃんが足を止めることはない。
小さな背中を申し訳ない気持ちで見送ると、辰見くんがいつもは優しい目をつり上げて私たちをにらんだ。
「君たち、一叶になにを言ったんだ?」
怒りを隠しもしない低い声に、三人は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
いつも優しい辰見くんが、ここまで怒るとは思わなかったのかもしれない。
バカだな。大切な人を傷つけられたら、どんな優しい人だって怒るに決まってるのに。
「……ねぇ、あなたたちは先に教室もどってくれない? 私、哩都と二人だけで話がしたいの」
私は三人に顔を向けないままもどるようにうながす。
すると、彼女たちは水を得た魚みたいに「わかった!」と言って走り去ってしまった。
足音も聞こえなくなるまでだまっていると、私より先に辰見くんが口を開いた。
「鴇野さん? なにがあったんだ?」
二人きりだからか、苗字呼びする辰見くん。その声は警戒しているかのように少し固い。
私が実は本気で一叶ちゃんをいじめてるんじゃないかとでも思ってるのかな?
それはそれで私の演技が完璧だってことだから別にいいんだけれど。でも、さっきから抑えている怒りを隠しきれていない私は、やっぱり未熟なんだ。



