シークレット・ミッション～なりきり悪女の恋愛事情～

『うん！　だから泣かなくていいからね？』

　本気であわてた言い方に、逆に心配させてしまったことに気づいてまた別の意味で申し訳なくなった。

　そういえば、前に顔会わせしたときも私泣いちゃったんだっけ。

　中学生になったばかりなのに、二人が婚約発表をしようと決めた理由を聞いたときだ。

　辰見くんと一叶ちゃんは小さい頃から結婚の約束をしていて、成長しても、一叶ちゃんの家が大変なことになってもその気持ちは変わらなかったんだって。
　これからもずっとお互いを支えていきたいって言う二人を見て、すごく深い愛に感動しちゃったんだ。

　つり目で澄ましたような顔立ちをしている私だけれど、実はものすごく涙もろいんだよね。

「そっか。ごめんね、いきなりこんな電話しちゃって」

　私は一叶ちゃんをいじめる悪役だから、本当ならこんな気軽に電話しちゃいけないんだ。
　あまり接触しすぎて、本当はいじめているわけじゃないってことがどこかから漏れちゃったら作戦失敗になっちゃうから。
　それなのにガマンしきれず電話しちゃった上に、逆に心配させちゃうなんて……。

　これじゃあ優秀なエージェントとは言えないよ。

　さらに落ち込んでだまりこんじゃった私に、一叶ちゃんは『ふふっ』と笑いながらなぐさめの言葉をくれた。