あの放課後、先生と初恋。





「どおりで音も悪いと思ったのよ。楽器には値段も大切なの」


「……あのとき、教室で見てくれたのって、」


「ええ。安い楽器なんでしょうねって、確かめるためよ」



なにそれ。
生徒を馬鹿にしているの。

あのときわたしがどれだけ嬉しかったと思っているの。


この先生はそこまで悪い人じゃないなんて、少しでも思っちゃった自分がバカみたい。



「そういえばあなたは母子家庭なんですって?私立に通わせてもらえるだなんて、お母様はさぞかしお仕事を頑張っているのね」


「……………」


「ふっ、でもねえ8万って。楽器はお金がかかるし、全国常連のうちは大会の遠征費だってあるわ。あなたもお母様にこれ以上の苦労はかけさせたくないでしょう」



これ以上の苦労って……。


お母さんは昔から言ってくれていた。

子供にかけられる苦労は、それは母親にとって“苦労”なんかじゃないって。