「それ、値段は?」
「…これ、ですか」
「そう」
わたしが手にする金管楽器のこと。
いきなり聞かれて、迷いながらも答えた。
「…8万くらい、です」
「ぜんぶセットで?」
「はい。初心者セットで……」
かなりの出費だ。
楽器にお金がかかることは知っていたけれど、ここまで高いとは思わなかった。
比較的値段も安価なクラリネットは、安いといった面で決める生徒も居るという。
だからわたしも最初は先輩たちにクラリネットを勧められたけれど、やっぱりトロンボーンは譲れなかった。
「普通はね、20万~30万が相場なの。初心者セットって、お遊びじゃないのよここは」
鼻で笑われた瞬間、わたしの胸にはふつふつと怒りのようなものが湧き上がってきた。
笑われることじゃない。
8万円の初心者セットはこの人から見ればオモチャなのかもしれないけれど。
わたしからすれば、おじいちゃんに買ってもらった一生ものの宝物なんだ。



