『せんせいっ、行くよーー?えいっ!』
『……ふっ、お前どんなコントロールしてんだよ』
『わあっ!ごめんっ!』
サッカーボールが転がってくる。
俺が立つ場所から大きく逸れた右側。
いつか俺と一緒にサッカーがしたいと言っていた。
しようねと、また勝手に約束をしていた。
『遥人くんっ、だいすきーーー!』
『…俺もだよ、にいな』
こんなふうになんの壁もなくお互いの気持ちをまっすぐ届けてくれるサッカーボールは、なかった。
けれど、それでいい。
そうだったから、いい。
「ーーー?ーーて、───ほらっ、おきて!」
「…………はよ…」
「おはよう。朝だよ?もうっ、先生が遅刻しちゃったら大変でしょ?」
海ではなく、窓を開ければ近くにある自然公園の森林が見える。
数年前にそれまでいた高校を異動となり、この町にやってきた。
「ブラックでいい?」
「ああ」
テーブルに置かれた朝食。
お腹の膨れた妻はコーヒーをドリップさせながら、空いた手でリモコンを操作した。



