「ごめん。それが…、俺の初恋ってにいな先輩じゃないんです」
「…え…」
「───一浦先生なんですよ、俺の初恋も」
なんか悔しい。
そこも先生が奪っていっちゃうんだねって、くやしい。
「サッカー以外で最初に夢中になったのは一浦先生でした。彼のサッカーに憧れて、彼のスキルに憧れて、追いかけて、この鈴高を選んで………にいな先輩に出会うことができた」
わたしの崩れた髪を整えながら触れて、涙目の然くんはわたしの背中を撫でるように押した。
「…行っておいで、にいな」
「行っておいで」を言われたら「おかえり」を聞かないとだね。
然くんがいてくれたから、わたしは今、地面を蹴って走れたの。
自分のためでもあるけれど、これは然くんのためでもあるような気がする。
「先生……!」
ぜったい振り返ってくれるよね。
足を止めて、どんなときだって先生は。
忙しいときも、他の生徒と話しているときも、いつだって。



