あの放課後、先生と初恋。





『じゃあ……来年も俺のために吹いてくれます?』


『にいな先輩の音にはパワーがあるんです』


『完全じゃなくたっていい。まだ、って部分があっていい。…それ以上、俺がにいな先輩を笑顔にします』



最初は不安だった。
誰かを元気にしたくて、がむしゃら。

わたしの音を信じつづけてくれた、然くん。



『がんばれ、皆木。もう十分がんばってるけど、俺はまだおまえが頑張ってる姿を見て……最後まで見届けたいんだ』


『頑張れ。…がんばれ。初めてにいな先輩の演奏を聴いたとき…俺、この応援があればどんなことでも乗り越えられる気がするって本気で思った』



辞めなくてよかった。
諦めなくてよかった。

泣きながらも、躓きながらも、転びながらも。

それでも続けたことに意味があるんだ。




「つづきまして私立鈴ヶ谷高等学校、結果は────ゴールド金賞」




この日のために本体の髭を剃ったんだから当たり前だろうと言って、感極まった「最高だ」の一言で締めくくった綾部先生。