そう言うと、先生は手にしていたケースから見たこともない光沢を持ったトロンボーンを取り出す。
今日わたしたちはこの場所に楽器は持って来なくていいと言われていて、その理由は。
「これは僕がプロ時代に使っていたものだ。有名な職人に特別に作ってもらった。ちなみにメンバーを勝ち取ったどちらかには、本番はこのトロンボーンで吹いてもらう」
「プロ時代…?」
誰かが問いかけた。
あまりにもサラリと言われてしまったが、聞き逃すことは絶対としてできなかったのだ。
「ああ、言っていなかったか。僕はかつてフランスのプロ楽団でトロンボーン奏者だったんだよ」
「そっ、そうなんですか…!?」
「まあ、そういうことだ」
何かがあると思っていた綾部先生には、本当に何かがあったようなのだ。
調べれば名前と写真くらいは出てくるんじゃないかと、呑気に本人は言っている。



