「この方は……先輩のお父さんですか…?」
「…うん。そうだよ」
写真の前、静かに両手を合わせた2人目。
飲み物を用意して、お菓子は何があるかなって探って。
そんなことをしていると腕を強く引っ張られた。
震えている腕は、わたしに手放されることを恐れているみたいだ。
「幻滅…しましたよね、さすがに。人生で1回あるかないかくらいのレベルで感情的になりました…」
「…うん」
「でも…、あれは俺の本心です。悔しかった…、あんなに言われて、楽器もボロボロにされて……悔しかったから」
にいなはこんなに頑張ってるのに───と、消えそうな声で首に顔を埋めてくる。
「……うれしかった」
「え…?」
「うれしかった…っ、…ありがとう」
楽器はできるだけ修理してもらえるように頼んでみる。
おじいちゃんとお母さんにも謝って、それでももしハルトが戻って来なかったとしたら。
そしたら次は、然くんと一緒に新しいトロンボーンを探したいな。



