あの放課後、先生と初恋。





どうしてスライドとの組み合わせ方を知っているの…?と、つい聞きそうになった。

左手がバキューンの形だということも。


聞かないことにしたのは、わたしの姿をずっと見ていたから、なんて答えられそうだったから。



「……あれ…?鳴らねーけど、これ」



マウスピースを濡れたハンカチで拭いてから、そこに迷いなく唇を付けた先生。

ブッ、ブッ、と、ただ息を吹き込んだだけのような音。



「……クチの形、こうしてる…?」



上唇と下唇のあいだに薄い紙を挟むような感覚。

これがアンブシュアの形だ。
それをしないと始まらない。



「まずはその形で、ふつうに吹くの」


「ブー、ブーっ、……こう?」


「…そんな感じ」



再び楽器を通してみると、ブハーーという、安定感もなにもない気の抜けたような短い音が小さめに響いた。



「これこれ。最初の頃の皆木の音」


「……下手くそだよ、先生」


「そりゃ初心者だからな。…でもおまえは、ここから吹けるようになったんだ」



十分だったみたいで、もう1度ハンカチで吹いてからケースに元通り。