「綾部先生、ちょっといいですか」
「なんだよ。僕は疲れてるんだ」
「すぐ終わるので」
「……また皆木のことか?どうせ、外を走らせるなとでも言いたいんだろう」
その通りだ。
わかってるなら今すぐ辞めさせろ。
どうしたらそんなに散らかるんだと思うデスク。
指導者らしくない部分はデスクだけじゃなく、髪や髯にも。
音楽家は変わった人間が多いと聞くが、ここまであからさまだと逆に誰もツッコめない。
「安心しろ。皆木は連続でボイコットだ」
「え…?」
「まさかだったな。楽器を恐れるようになったらとうとう終わるぞ、あれは」
吹奏楽部は数日前の大会で県代表に選ばれたらしく、指導終わりに戻ってきたところを俺が捕まえたというわけだ。
そんな綾部先生のため息混じりの言葉に動揺しながらも、俺は聞きたかったことを最優先させた。
「……皆木には、なにが足りませんか」
書いてある内容など俺にはまったくもって分からない楽譜を眺めていた目が、ゆっくりとこちらを捉えてくる。



