影を落としてくる然くんは、そっとわたしの前髪を退かしてから頬を撫でてきた。
「ぜんーー?ちょっとお母さんナオ連れて買い物に行ってくるわねーー?にいなちゃんも何か欲しいものとかあるーー?」
「あー、なんか飲み物適当にーーー」
「はーーい」
階段下からの声に淡々と答えて、再びドアは閉まる。
ベッドの上で顔を赤くさせているだろうわたしを見つめると、もう1度、然くんはまったく同じ体勢を作った。
「然くん…っ、心臓おかしくなりそう…」
「俺もです。…でも、したい」
ファーストキスになる。
然くんにとってもわたしが初めての彼女と言っていたから、これがお互いにとってのファーストキス。
何事も初めては忘れられないものだ。
ここでキスをしたらきっと、ずっとずっと忘れらない思い出になる。
ほら、然くんがまたひとつ、増えた。
「────………っ、」
向かってくるから、目をゆっくり閉じる。
唇が重なる寸前、彼の姿と声がぼんやりと出てきて。
すぐに打ち消すみたく、然くんで埋め尽くされた。



