「…俺、たぶん調子に乗ってます。最後PK決めて、優勝できて浮かれてるんです」
「…いいと思うな。今日くらい」
「!…じゃあ、」
ぎゅうっと、ちからが込められた。
密着する身体から然くんの心臓の音がする。
わたしも同じで、抱きしめられた苦しさじゃない苦しさがある。
「にいな先輩が大好きです。…俺と……、付き合ってください」
涙がひとつ、こぼれた。
この人を選べば笑顔の毎日があると、私自身が思ってしまったからだ。
「わたし…、ひどいよ…?楽器の名前、ぜったい然くんを傷つけちゃってるし……」
「そうですね」
「自分を守るためならわりと平気で嘘、つくもん…」
「知ってます」
さっきも嫌だったよ。
ミニスカートを履いたチアリーダーたちと仲良さそうに話してたの。
だから見ないようにして、心のなかで然くんの笑顔を思い浮かべるように耐えていた。
あんなふうにピッチ上で笑えたなら、幸せなんだろうなって。



