生徒たちのあいだに皆木サイドの声があったとしてもこちら側はないはずなのだ。
だれがそんなことを教頭に告げたんだと、俺は探る。
『万が一のことにでもなれば、吹奏楽部がコンクールに参加できなくなってしまうんですからね』
なんとなく、牧野先生の仕業じゃないかと俺は思った。
俺がいつかの球技大会での保健室で皆木とツーショットを撮った際、いちばん驚いていた女だ。
俺が女子生徒の頼みを聞くだなんて、思ってもいなかったのだろう。
俺のことを誰よりも知っているのは自分だと、マウントを取る気でいただろうから。
『よろしくお願いしますよ、一浦先生。あなたは教師なんですから。大人としての責任を持った行動を』
『……はい。すみませんでした』
俺の気持ちは正しくないものだ。
期待を与えてはいけないと分かっていながらも、なぜか与えてしまう。
それは俺自身があいつに期待しているからだろう。
母親に嘘をついてまでも夜まで時間を潰す姿には、やられた。
初めて見せられた涙には、やられた。
台風の日の朝食にも、やられた。



