「不協和音すぎてこっちが釣られそうになるんで、しっかり自主練してきてくださーーい」
「…うん。ごめん」
「不協和音じゃない」
わたしを庇うように立った然くんは、名波くんの言葉を真っ向から否定した。
「あ、サッカー部の人には言ってません。その隣の皆木先輩に言ってんです」
「俺はにいな先輩の音に救われた人間だ。そんな大切な先輩のことを……不協和音だなんて言うなよ」
「………はーーい」
先輩も一丁前に彼氏なんか作ってんですかと、ぼやきながら消えた名波くん。
「…なんだあいつ」とこぼす然くんの声は低かった。
「……わたしより上手な子なの」
不協和音と言われて正解だ。
わたしの演奏が仲間たちのテンポを狂わせていると、綾部先生にも言われてしまったのだから。
「わたし…っ、わたし、今年からトロンボーン始めたあの1年生よりも下手なんだよ…っ」
本来は、この涙を見せる存在は然くんじゃなかった。
今までのわたしは然くんじゃない人にずっと見せていた。
でもそんなことすらできなくなっちゃったから、とうとうだ。



