「にいな、なにかあった?音が不安定っていうか、前はできてたところが荒くなってるよ」
「…心菜、ごめん。なんとか取り戻すから」
感情と音は直結だと綾部先生は言っていた。
こんなにも実感する日がくるだなんて、思っていなかったんだ。
「ねえイッチー!このメイクどう!?似合ってる!?」
「堂々と校則違反を指摘されに来てどーすんだよ」
「でもでもっ、かわいいでしょ!?」
「はやく教室戻れっつーの。ちなみに今日中に落とさなかったら居残りさせるからな」
わたし、なにかしちゃったのかも。
浮かれすぎてとうとうウザくなったのかも。
それくらい、先生はわたしだけじゃない女子生徒の声に耳を傾けることが多くなったように思う。
「先生……!」
めげずに呼ぶ。
立ち止まって振り返ってくれるものの、こちらには歩み寄ってこない。
「────小野寺(おのでら)」
と思えば、別の名前を呼びながら向かってきた。
スタスタ近づいて、わたしを通りすぎて。



