「どうして前、わたしのこと抱きしめてくれたの…?」
泣いてたから?
可哀想だったから?
せめて元気付けたくて?
もしそうだったなら、あの日、つい離れようとしたわたしを引き寄せなんかしないよ。
「今だって、なんでそんなことするの…?先生よく分かんないよ…、わたしは先生が牧野先生と付き合ってたって知ったとき、すごくすごく嫌だった……!」
わかんないよ、その顔。
もっと感情的になって欲しいし、気持ちを見せて欲しい。
わたしばっかりがいつも振り回されてるよ
うな気がして、苦しい。
「先生はしないの…?然くんとわたしが仲良くしてるの見てっ、」
「してるよ」
「……!」
嫉妬、で、いいんだよね……?
「たぶんおまえが思ってるより…ずっとな」
心臓が掴まれるとは、きっとこれだ。
だったら今、抱きしめて欲しい。
だれも見てないよ。
生徒だって先生たちだって、いない。
「俺はそこまで大人でも器用でもねーよ。
あのとき抱きしめたのは……俺がおまえにそうしたかったからした、つったら?」
確かに言ってくれた。
先生は言ってくれたのに。
ある日を境に笑いかけてくれることはなくなって、わたしが向ける好意を迷惑だとまで切り捨てた。
彼は完全に「教師と生徒」を選んだのだ。



