「……ご、めん……。わたし、好きなひと………いる」
「知ってます」
「えっ…」
「でもそれは…、笑顔より涙のほうが多いんじゃないかなって……俺は思うから」
赤い鼻、白い吐息。
マフラーに唇を埋めたわたしを、そっと取り出してくる。
「返事は今じゃなくていいんです。だって先輩、俺のことぜんぜん知らないじゃないですか。それで俺もにいな先輩のこと……まだまだ知りたいこといっぱいあります」
「……うん」
「だから、まずは俺を知ってください。俺もにいな先輩にたくさんアピールしますから。もしその上で…、俺に少しでも惹かれたら………チャンスをくれませんか」
春季大会はいちばん最初の大会で、4月半ばから6月前半にかけて行われるという。
今は1月末。
まだまだ時間はたっぷりある。
そのあいだに何が起こるかは、なにが変わるかは、誰にもわからない。
彼はそこに懸けるつもりなんだ。
「からだ冷やさないように、あったかくしてくださいね」
それから然くんはそう言って、落ちた小銭をわたしに戻すと。
自分のお金でホットココアをひとつ購入。
わたしの手にしっかりと持たせてから、彼は冬のなかを帰っていった。
知らなかった。
先生が見ていたことなんて─────。



