「トイレは向こう」
「あっ、おじさん待って…!」
「だれがおじさんだよ」
誰かに声が似ているような…、似ていないような……?
誰かに雰囲気が似てるような、似ていないような……。
とくにさっき引き寄せられたとき、腕の感覚と匂いが………誰かさんに。
「遅れてごめんなさい!!トイレに迷ってました……!」
「よかった…!探してたんだよにいな!ほらこっち!」
「ごめんっ」
それから無事に戻って、リハーサルにも間に合った。
頑張ろう、今日は。
この日のためにたくさん練習してきたの。
なにより今日は、顧問が変わった新体制の鈴高をみんなに見せる機会でもある。
「先生、やっぱり髭は剃らないんですか…?」
「なにを言ってるんだい君は。これは僕の本体じゃないか」
「えっ、…そうなんだ…」
近くで面白い会話が聞こえた。
髪の毛はいつもより整えてはいたものの、お髭はそのまま。
なんと本体は髭だったのだと。
この人が鈴ヶ谷高校吹奏楽部の新しい顧問だよと、いろんな学校の生徒やファンたちに教えてあげよう。



