「じゃあ先生も頑張って!それじゃっ」
何かがあるのかもしれない。
わざわざわたしを走らせて、筋力トレーニングをメインにさせている理由が。
そう思わせてくるんだ、綾部先生は。
だって、貶さなかったから。
彼の立場になればわたしの楽器の性能なんてすぐに分かるはずなのに、貶さなかった。
「どうだ、なにか見えたかい。ランナー」
「皆木です!!」
「ってことで約束どおり、返すとするかな」
そうして地獄の1週間を無事に終えた。
呼ばれた空き教室に座っている、まだ慣れない顔。
けれどここまで近づいて、そんなに歳がいっている人じゃないんだと知る。
「さあ吹いてみろ」
「え、今ですか…?」
「当たり前じゃないか。なんのために僕は呼んだんだよ」
椅子を適当に引き寄せて、そこにわたしを座らせた綾部先生。
今はちょうどお昼休みのため、外ではちらほらと生徒たちの笑い声が聞こえてくる。
わたしは言われるがまま、久しぶりのマウスピースに唇をつけた。



