「はっ、はあ……っ、これで15周……っ」
マラソンするしかなかった。
グランドの周りをぐるぐると、だってハルトを物理的にも取られちゃったから。
せっかくみんなに並べたのに、また差をつけられちゃう……。
「くっそーーっ!!!」
スピードを上げて、16周目を目指す。
グラウンド横のサッカー場にたまに目に入る大好きな人がいて、けれどどんな顔でわたしを見ているかまでは余裕がない。
必死なんだわたしは。
もしこれがクリアできなかったら、ハルト没収期間をもっと延ばすとまで言われていた。
「本当にあの人が新しい先生なの……」
水道で大げさにバシャバシャと水を出して、顔をゆすぐ。
まさか10月にここまで走るとは思ってもいなかった。
走ることは得意だ、運動は基本得意だ。
でもわたし………文化部だよ?
「おまえはいつから陸上部になったんだよ」
「わっ、あ!」
「なにしてんだ。楽器はどうした」
やっぱり気にしてくれてたみたい……。
和久井先生のことがあってから、この人とは微妙な空気が流れつつも目が合う頻度が多かった。



