「今日から1週間、きみはグラウンド50周。練習になんか参加しなくていいから、そのあと腹筋だ。まあ主に筋力トレーニングだな。頑張れよ」
「えっ」
「それまでこの楽器ちゃんは没収。よろしく」
「ちょっ…!」
ひょいっと奪われたハルト。
手を伸ばしているあいだにも、彼はわたしのハルトを持って指揮台に戻ってゆく。
「あのっ、彼女は初心者なんです!毎日がんばって練習して…っ」
「うるさいなあ、きみ3年だろ?もうきみの舞台は終わったんだよ夢から覚めろ。こんなとこにいないで受験勉強でもやっていろって」
黙り込むしかなかった落合先輩。
それくらいだ。
それくらい、あの人の目は鋭いのだ。
「改めて今日から顧問になった綾部(あやべ)だ。和久井先生がどれだけ甘い指導してたかは興味もないけれどね。……僕は比じゃないくらいに厳しいぞ、ハナ垂れ小娘たち」
だって僕は天才だもの───と、笑いながら凄まじい自己紹介。
そしてわたし。
ハルトを手放す毎日、はじまる。



