元部長さんから指揮棒を奪った男。
またまた生徒を恐れさせては、簡単に指揮台に乗ってしまった。
「音楽ってのはな、開始1秒で決まるものだ。つまり出だしでどれだけ迫力と重圧を与えて、聴いてる側を依存させられるかってことに懸かってる」
急な語りに、みんなどうしたらいいのか分かっていない。
ただ、聞く価値はあると思ってしまう謎の空気だった。
「それがきみたちの合奏には皆無。ひどいねえ、うっすいねえ。これが鈴高のレベルだなんて僕は聞いていなかったぞ」
ははは、と。
彼の笑い声だけが響き渡る。
「とりあえずひとりずつ音を聞かせてもらえるか。はいじゃあ端っこにいるラッパから、どうぞ」
ラッパ………。
その呼び方をすると、トランペットパートさんはわりと怒る。
よく分からない男に「吹いてみろ」と言われたものの、端っこの1年生は応えようとはしなかった。
「……どうぞ?」
「っ、はい、」
そして圧に、やられた。
大人の圧というより、底知れぬオーラのようなものが見えたのだ。



