「…落合、皆木はちゃんと練習してるか」
「っ!!一浦、せんせい…」
電話が切られたタイミング、たまたま通りかかった程(てい)を装って俺は聞いてみる。
普段はイッチーとかいう愛称で呼んでくるが、生徒ってのは2人になったとたん逆に改まるんだから面白い。
「……にいなは、練習に来ていません」
「…来てないって、どういうことだ」
まさか辞めたのか…?
いいや、さすがにそれはない。
俺と約束したんだから、ないだろ。
「来なくていいって顧問に言われたんです。…いや、実際は“来るな”って」
「……和久井先生が言ったのか」
「…はい」
なにが自主的に辞めさせることしかできない、だ。
強制的に辞めさせてんだろ。
「でも本人はいつも時間を合わせて同じようにひとりで練習してるって、聞いてます。
……にいなはそういう子だから」
「…そうか。気をつけて帰れよ」
生徒を見送ったあと、俺も学校を出てすぐに車を走らせる。
なんとなく家にはまだ帰っていないような気がしたのだ。



