「忙しいのにごめん。そっちはどう?…うん、うん、そっか、甲子園球場はやっぱり大きいんだね」
下駄箱の陰にて、コソコソと電話しているだろう女子生徒の姿があった。
別に隠れるつもりはなかったが、ここでズケズケと歩いていけるほど空気が読めないわけではない。
「相手はセンバツのベスト8に入ったところだって聞いたよ。大丈夫そう…?」
3年の落合 奏。
吹奏楽部では皆木がいつも世話になっていると、本人から知らされていた。
野球部に彼氏がいるとか何とかで、一時期メンバーを外されそうになって、その後は無事に戻ったことも。
「私はここから応援してる。ソーマ、……大好きだよ」
なぜか俺は後ろめたさを感じた。
たとえ教師という立場だとしても、生徒の恋愛事情に口を出す権利はない。
ただ教師である立場上、生徒をしっかり指導する義務がある。
としても俺自身、とある女子生徒から似たような言葉を毎日のように贈られているのだ。



